スイッチ.4
4 動き出した背後
「そろそろ遅いし、また明日にしよう。」
そう言われたから帰ることにした。神無崎駅に戻ってくると、見慣れた奴が腕時計と時刻表を見比べておどおどしていた。こちらに気づいてぱぁっと安心したような顔をした。
「あ、みっくんのお兄さん。」
「西沢さん、先日から未来がお世話になってます。」
保護者のつもりか。そんなふうな礼をする。
「いえいえ、こちらこそみっくんにお世話になってます。」
彼らの間でのジョークか何かか?二人だけでにやにや笑いやがって。
「兄貴、なんでわざわざ迎えに来たんだよ。それに、ここのとこ毎日やけに心配してるじゃねぇか。なんでだ。」
「…それはまた家に帰ってからじっくり話すよ。さ、未来、西沢さんの家まで散歩しようか。」
腕を掴んできた。一体どういうつもりだ。
「なんでだよ!放せ!」
振りほどいたがまたもっと強く掴まれた。
「これから捜査を続けるのなら、絶対に一人になるな。消されるぞ。」
今まで聞いたことのないドスの効いた低い声。従うしかないと悟ったと同時に、今まで兄に甘えていたことを自覚した。
「これからは僕も一緒に行動します。」
「そっか、危ないからね。助かるよ。」
「西沢さん、職務放棄だのなんだの言われようと、もう出勤はしないで下さい。絶対にです。」
交番の奥…か。なるほど。
「そして未来、あと何日で解決するか言ってみろ。」
急に言われて驚いたが、ふと浮かんだ日数は
「…3日。」
大原はその夜、西郷のことを思い出してまた泣いていた。ああ、またやってしまった。本当のことをやはり言うべきだった。
引き出しに納められた封筒、警察からのものだった。ことの核心をつく発言は控えろ、と。
だが、警察がなんだ。彼の願いが何一つ叶っていないのが、もどかしくて悔しくて叫びそうになった。
2滴3滴と涙を拭いたところで、パトカーのサイレンが遠くで聞こえた。
「嘘…だろ。」
翌日の朝。俺は日課の新聞を読んでいた。昨日のサイレンについてまさかとは思っていた。だが、現実となった。
米沢が殺されていた。
死因はわからず、変死と書いてある。
すべてを悟ってしまった。
テロの犯人は西郷でもう間違いないということ。そして、俺達が戦っているのは西郷を虐めていた人間だけではない、
ここら一帯の警察だということ。
いわゆるお偉いさんに俺たちは喧嘩を売っていた。
「兄貴、早く準備しろ。やっぱり今日中に決着をつける。」
お気に入りの二着目のフード付きのトレーナー。俺にとってのヒーローの服。リュックを背負ってフードを被った。万全の体制で兄貴が来るのを待った。
「実はな、これから聞き込みに行く予定だった人が逃げたんだ…。」
「昨日の今日ですし、それは当然でしょうね…。」
「あと一人、聞き込みができる人がいる。今から行くのはそこだ。」
わざとらしくメモを差し出した。
「西郷…町子。」
「西郷の母親だ。ここで西郷の高校の卒業アルバムを貰う。」
実は今までの二人からも貰おうとしたのだが、なくなっただのなんだので貰えなかったのだそうだ。
「なんだかドキドキするな…。」
そりゃあそうだ。なんせあの西郷が育った家に行くのだ。
深呼吸をして玄関をでた。嫌味ったらしく太陽に照らされた。