HEROES

鳥川雛太の小説、イラスト、ステンドグラスなどを置いてます

スイッチのほんとのあとがき

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この人が西郷茂之さん。

 

はい、本当の作者鳥川です。スイッチ、いかがでしょうか。よく聞く『本当に酷い話』をなるべく一人に押し付けてみた結果といえば、西郷さんに悪いですね。

実は元々彼は未来がグレーのフード付きのトレーナーを気に入って着用する理由をかっこよくするために生み出されたモブでした。

なるべく未来の視点で書いてるのにも理由がありますが、また後々の話でそれは明かしましょうか。

ほんとのあとがきと付いているもの以外はすべてHEROESの世界です。稚拙な文だと油断せずに、これからもお楽しみください。

スイッチ.7

7 あとがき

『この話を含め、これから語るのは俺達が取材した事実、いわゆるドキュメントです。今回のスイッチは編集の時渡現本人とその弟が体験した、これからのヒーローたちが現れる元となった出来事でした。西郷茂之さんや爆破テロの犠牲者の御冥福をお祈りしています。

 作者 日野陽介』

『若い頃の苦い記憶の一つがこの出来事です。巡り巡って陽介君とペアで小説を発行しておりますが、彼について早速語ることが出来て良かったです。ここから先は事実か疑うような事がたくさん起こりますが、ヒーローたちの生きた歴史をどうか見守って見てください。あ、僕の千里眼も嘘ではないことを覚えていてくださいね。

 編集 時渡現』

 

 

不思議な本に出会った。各話が終わるごとに作者と編集のあとがきがついている謎仕様。

昨年亡くなった曾祖父さんからと祖父母から渡された26歳の誕生日プレゼント。坂本紡は頭を抱えていた。2015年なんて、今から86年も前のことだ。何なら登場人物の西郷が事件を起こしたのが26歳というのが気持ち悪い。同じ歳だから読ませたのか?嫌味なことをするもんだ、曾祖父さんよ。

絶対に読みなさいと念を押されていたため、仕方なく次のページを開く。

題名は『未来予報士』。

スイッチ.6

6 西郷茂之

26歳、頑張って警察に就職した理由を改めて思い出して切なさにくれた。

生まれてから、小中高大、そして警察になってもなお、虐められた。

母さんはなんで僕を虐めたんだっけ。確か僕が生まれたせいで男に逃げられたんだっけ。

傷ついた物体を雑に扱うのに罪悪感なんてあるはずが無い。

親につけられた痣を見て、周囲の人間は僕を虐めていいものとして認定した。

誰も止めてくれないのには参ったなぁ。

頑張ってこの世にしがみついて大人になった。

こんな酷い虐めを無くすには、僕が正義の立場の人間になるしかない。そう思って警察になった。

それがどうだ。警察に虐められるなんて。警察の中にも正義なんて無かった。

その上、満足に食事をさせてもらえなかったからか僕は華奢な身体つきで、欲求不満が溜まっていた部長に何度かレイプ紛いのことをされた。

 

もう、希望も糞もない。

自分以外の人間の幸福が憎くて憎くて仕方が無かった。できることならば、今笑っている全員を殺してやりたいくらい。

クリスマス前、幸せそうな家族が歩いていた。あの娘さんをたった今殺したら、一体どんな顔をするのだろう。顔をくしゃくしゃにして、骨格が歪むまで悲しむのだろうか。

誰からも愛されなかった。その逆を考えれば大体想像がついた。

 

グレーのフード付きのトレーナー。腹の辺りのポケットに忍ばせた『スイッチ』。あらゆる人間が幸せに浮かれるこの時期、街中に爆弾を仕掛けるのなんて簡単だった。

目の前で蠢く大量のゴミ。誰も僕に気づかない。

自分の足元に最後の爆弾を置いた。これで終わる。僕が消えてなくなる。

スイッチを押すと遠くで、次は近くで爆弾が炸裂した。サラリーマンが二人、血を流して倒れていた。絶叫が絶望の喚きが響き渡る。まだまだ続く爆弾地獄。あと1分で僕もおさらばだ。

思わず大笑いしていると、足に子供がしがみついてきた。

「お兄さん、死んじゃダメ!!」

幼い声で必死に叫ぶ。

は?なんでこの子は僕が犯人だとわかった?

その理由はわからないが、涙が止まらない。初めて、死ぬなと言われた。

ああ、この子は優しい貴重な子だ。殺してはならない。

あと5秒子供を抱えた。

4秒走り出した。

321。跡形もなく消えたいから、最も強力な爆弾を設置していた。結局爆発に巻き込まれ、子供を抱えたまま吹き飛ばされた。

 

子供は守りきれただろうか。

僕は意識を手放した。

スイッチ.5

5 決着

アパートカルラン。いかにも古いアパート。そこに西郷町子は住んでいた。

カタンコトンと一人がやっと通る幅の階段を上る。204の番号を探す。ありえない事だが、いっそ見つからないでほしいくらいだった。

「ここだ…」

気のせいだろうが、なんだか重苦しいオーラを感じた。

「さっさとアルバムを貰って帰りましょうよ…」

「それは時と場合だよ、みっくん。」

インターホンを鳴らす。

「はい。」

今までと違い涼しい顔をして出てきた。嘘だろう。そう思うしかない。

 

兄貴は外で待つことにした。ちょっと気になることがあるらしい。

「狭いですが、その辺の椅子に座ってくださいな。アルバムを持ってきますから、適当に待っててください。」

素っ気ない。あまりにも冷たい。歳のせいで入ったほうれい線。下がった口元から多分嫌な奴だとわかった。

「やっぱりさっさと帰りましょうよ…」

コソコソと話す。

「私も早く帰ってほしいのですが?」

聞こえていたのか嫌味を言われた。やっぱり嫌いだ。

「それじゃあ早く渡してください。すぐに帰りますから。」

「こら、みっくん。」

「やっぱり嫌ですよこんなところ。」

部屋を見渡す。やけに散らかっている。たたんでいない洗濯物。散乱したままの雑誌。

部屋の奥に写真が貼ってあったが、ある男と写った写真ばかり、西郷の写真は一枚も無い。

「はい、これです。では早く出ていってください。」

ビニール袋に適当に入れられたアルバム。扱いがあまりにもぞんざいだ。

 

こちらから出ていってやった。

「おかえり、早かったな。」

「嫌なおばさんだったよ。」

「そうか。早く帰ろう。」

西沢さんの家に向かう。

いっその事だ。あえてこんなことを西沢さんに聞いてみた。

「そう言えば、警察官の制服の西っていう字、やけに古ぼけてましたよね。」

西沢さんは首を傾げていたが、兄貴は察したのだろう。目を伏せた。

 

とうとう西沢さんの家に帰ってきた。3人で粗末なカーペットにアルバムを囲んで座った。

腹が痛くなってきた。

「じゃあ、早速見てみようか。」

神無崎高校。近くの県立高校。3年5組5番。確かに、まるで死んだかのような目をした明らかに雰囲気の違う男子生徒がいた。これが西郷茂之…。

 「うわあああああああああ!!!!?」

西沢さんが驚いてアルバムを放り出してすごい勢いで後ずさった。

「…。」

何も言えない。

「嘘だ…なあ…嘘だろう?」

「…。」

兄貴ももう黙るしかなかった。

「なんとか言ってくれよ!!なあ!!!」

 

本当は俺たちは知っていたのだ。

「西郷茂之は…僕だったのか…?」

記憶喪失の警察官の西沢英一なんて、この世に存在していなかった。今まで仲良くしていた幼い頃からよく知るこの男。彼こそまさに西郷茂之なのだ。

そしてもうあの日から西郷茂之も存在していない。記憶が消えたのだ。西郷茂之は死んで、西沢英一としてこの10年間生きていた。

無言のまま、もう一度アルバムを開く。この顔だ。ここ最近毎日見ているよく知った顔。

気が動転した西郷は早く警察を呼べ、早く殺せ、僕がテロ犯だと叫び続ける。

しかし、

「…どうして、警察は記憶の無いあなたを世間に吊るし上げなかったと思います?」

「…なんでだよ…」

「西郷茂之が警察だったからです。警察がテロを起こしたなんて、世に知れ渡ったらどうなると思いますか。信用はガタ落ち、不信感が日本を覆うのです。」

「つまり…」

「あなたは、西郷茂之はお偉いさんのメンツを守るために、存在を抹消されていたんです。」

「どうして二人は全部知っていて黙ってたんだよ!!」

すさまじい罪悪感が這い上がってくる。でも言うことは一つだった。

「俺たちはあなたが大好きだったからです。西郷茂之としてのあなたも、西沢英一としてのあなたも。」

この言葉が、あの西郷茂之本人に届かないのが辛い。

「警察に行く前に、インターネットであなたがテロ犯、西郷茂之だと公言しましょう。警察に嘘をつかせるわけにはいきません。西郷茂之の本当の目的のためにも…。」

「本当の目的…?」

「俺は、『虐めの根絶』だと思っています。頑丈な壁はとんでもない方法で壊すしかないのですから…。」

 

 

翌日、情報を公開してから世間は大騒ぎ。嘘をつく間もなく、西郷は牢に入った。本人の意思もくんで、明日には死刑を決行するらしい。皮肉にも方法は首吊りだが。

昨日冷静なフリをして堰き止めていた涙がボロボロと溢れ始めた。

あわよくば、このまま一生思い出さないで、第二の人生を幸せに生きて欲しかった。でも、全ての自由が効かなかった西郷の願いの一つ叶えてやりたかった。だから真実を知ろうと動き出したらなるべく協力しようとは思っていた。

兄貴が優しく抱きしめてくれた。いつもなら振りほどくのだが、今日だけは本気で甘えることにした。

 

 

明日死ぬ。首を吊ってこの世から消される。牢に入ってからずっと考えているうちに少しずつ思い出してきた。理不尽なまでに不幸な人生。確かにたくさんの虐めを受けた。誰からも愛されなかった。嬉しいなぁ、みっくんもお兄さんも僕のことを悔やんでくれて。でも、僕はたくさんの人をほんの数分で殺した。死ぬだけで償えるはずがない。

僕ができることは死ぬこと。それ以上も以下もない。

 

 

地球も時計もくるくる回る。気がつけばもうその朝が来ていた。看守がやって来た。何か言われる前に立ち上がる。

向かったのは静かな部屋。縄の輪が吊り下がる。

「最後に言い残すことはあるか」

少し考えた言葉が上手くまとまらない。死の間際の拙い言葉だが、どうにか声に出した。

「これからの世代が、虐めも虐待も無い、平和で幸せな世界を作って行くことを願っています」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スイッチ.4

4 動き出した背後

「そろそろ遅いし、また明日にしよう。」

そう言われたから帰ることにした。神無崎駅に戻ってくると、見慣れた奴が腕時計と時刻表を見比べておどおどしていた。こちらに気づいてぱぁっと安心したような顔をした。

「あ、みっくんのお兄さん。」

「西沢さん、先日から未来がお世話になってます。」

保護者のつもりか。そんなふうな礼をする。

「いえいえ、こちらこそみっくんにお世話になってます。」

彼らの間でのジョークか何かか?二人だけでにやにや笑いやがって。

「兄貴、なんでわざわざ迎えに来たんだよ。それに、ここのとこ毎日やけに心配してるじゃねぇか。なんでだ。」

「…それはまた家に帰ってからじっくり話すよ。さ、未来、西沢さんの家まで散歩しようか。」

腕を掴んできた。一体どういうつもりだ。

「なんでだよ!放せ!」

振りほどいたがまたもっと強く掴まれた。

「これから捜査を続けるのなら、絶対に一人になるな。消されるぞ。」

今まで聞いたことのないドスの効いた低い声。従うしかないと悟ったと同時に、今まで兄に甘えていたことを自覚した。

「これからは僕も一緒に行動します。」

「そっか、危ないからね。助かるよ。」

「西沢さん、職務放棄だのなんだの言われようと、もう出勤はしないで下さい。絶対にです。」

交番の奥…か。なるほど。

「そして未来、あと何日で解決するか言ってみろ。」

急に言われて驚いたが、ふと浮かんだ日数は

「…3日。」

 

 

大原はその夜、西郷のことを思い出してまた泣いていた。ああ、またやってしまった。本当のことをやはり言うべきだった。

引き出しに納められた封筒、警察からのものだった。ことの核心をつく発言は控えろ、と。

だが、警察がなんだ。彼の願いが何一つ叶っていないのが、もどかしくて悔しくて叫びそうになった。

2滴3滴と涙を拭いたところで、パトカーのサイレンが遠くで聞こえた。

 

 

「嘘…だろ。」

翌日の朝。俺は日課の新聞を読んでいた。昨日のサイレンについてまさかとは思っていた。だが、現実となった。

米沢が殺されていた。

死因はわからず、変死と書いてある。

すべてを悟ってしまった。

テロの犯人は西郷でもう間違いないということ。そして、俺達が戦っているのは西郷を虐めていた人間だけではない、

ここら一帯の警察だということ。

いわゆるお偉いさんに俺たちは喧嘩を売っていた。

「兄貴、早く準備しろ。やっぱり今日中に決着をつける。」

お気に入りの二着目のフード付きのトレーナー。俺にとってのヒーローの服。リュックを背負ってフードを被った。万全の体制で兄貴が来るのを待った。

 

「実はな、これから聞き込みに行く予定だった人が逃げたんだ…。」

「昨日の今日ですし、それは当然でしょうね…。」

「あと一人、聞き込みができる人がいる。今から行くのはそこだ。」

わざとらしくメモを差し出した。

「西郷…町子。」

「西郷の母親だ。ここで西郷の高校の卒業アルバムを貰う。」

実は今までの二人からも貰おうとしたのだが、なくなっただのなんだので貰えなかったのだそうだ。

「なんだかドキドキするな…。」

そりゃあそうだ。なんせあの西郷が育った家に行くのだ。

深呼吸をして玄関をでた。嫌味ったらしく太陽に照らされた。

スイッチ.3

深夜0時、カレンダーを見て春休みまでの日数を数えていると、西沢さんからメールが届いた。

『夜遅くにごめんね。一つ気になって…。あのサイトは慰霊って書いてたけど、やっぱり西郷は死んでるんだよね?』

まあ、そうだ。少し返信に迷ったが、とりあえず何の気なしに返すことにした。

『そういうことでしょう。そう言えば、土曜日なので早めに行きます。勉強もやりますが、明日出来ることは考えておいてください。』

送信を押して、電源を落とした。

さっさと寝てしまおう。部屋の電気を消し、ベッドのふちに座って考え事をしてから横になった。その瞬間部屋の外から足音がした。兄貴がいやがったか。だが兄貴が俺を止める気配はない。goサインと取っておこう。

 

3 聞き込み

 

やはり朝はまだ寒い。お気に入りのフード付きのトレーナーを着て適当なジーパンをはいた。勉強道具やメモに地図帳。役立ちそうなものはリュックに放り込んだ。

玄関を開けようとしたところで兄貴が声をかけてきた。

「いってらっしゃい。しっかりやってくるんだぞ。」

勉強のことか、捜査のことか。

「…おうよ。」

やけに心配そうな目に腹が立って、ドアを勢いよく閉めた。

 

「やぁ、みっくん待ってたよ。」

いつもの挨拶。

「どこに行くか決めましたよね?」

「もちろん。この近所に住んでる米沢さんの家から行こうと思うんだ。もうアポもとってるよ。」

「そうですか。それじゃあ早速行きましょう。」

俺としてはもう今日のうちにやれるところまでやるつもりだ。早く行くに越したことはない。

 

インターホンを鳴らすと、すぐに米沢さんが出てきた。

「どうも、米沢信之と言います。」

「わざわざ時間を割いていただき感謝します。西沢英一です。」

西沢さんが丁寧に礼をするから俺もとりあえず頭を下げた。

米沢、どうやら少し動揺しているようだ。そりゃあそうだ。西郷について話せば殺されかねないのだ。しかし、それ以外もあるだろうから俺が代わりに観察してやろう。

リビングに通され、紅茶を出された。ティーカップの中がやけに揺れてるのも見逃さなかった。

「お二人は、西郷について調べているのですね。」

「はい。」

「私は高校時代彼と同級生で、言い難いのですが、彼を虐めていた主犯格の1人です。」

「ふむ。それではどうして、あなた方は彼を虐めていたのですか。」

「変な話ですが、わからないのです。もはやそのような文化になっていたと言うのが一番近い表現かもしれません。私は高校からでしたが、恐らくもっと前からだったのでしょう…。」 

「恐ろしいものですね。」

「…はい。この際ですから正直にすべて話させてください。実は虐めていた人間や関係者が変死し始めるまで、私たちはまだ彼のことを蔑んでいました。あのテロはやっぱりアイツがやったのか、と。死んでせいせいしたと。」

「やはり西郷が犯人なのですか!?」

「ええ。きっとそうです。」

少しムカついたから、意地悪な質問をしてみるか。

「で、その根拠は?」

「根拠は無いですよ。しかし、現実に西郷はもういなくて、その上あんなことをするような奴は西郷しかいないに決まっていますから。」

「そうさせた本人達の一人がよく言ったもんですね。」

嫌味を言ってみるとやはり少し怒ったような顔をした。

「今日のところはこのくらいにしておきましょうか。もう出ていってください。」

「貴重な話をありがとうございました。では。」

西沢さんが立ち上がったから俺も立ち上がった。無言だからか短い廊下でパタパタとスリッパがうるさい。一礼して戸を閉めた。

「みっくん、どうしてあんなことを言ったんだよ。」

少し怒った声。臆する必要も無い。

「自分を被害者にすり替えて、その話し方に腹が立っただけですよ。」

「…まったく。さぁ、次に進もう。」

「えー、次は誰ですか?」

「大原澄子。中高が同じだったらしいんだ。」

女性か。おそらく虐めの主犯格ではないはずだ。

「さ、行こうみっくん。」

 

神無崎駅から二つ先の三室町駅から徒歩10分。少し入り組んだ通りを抜けると大人しめな見た目の洋風の豪邸が建っていた。

少し大きな門についたインターホンを鳴らす。『はい。今すぐ』と女性の声がした。澄子本人だろう。

しばらくすると門が開いた。少なくとも母より綺麗な女性が顔を出した。

 

お決まりの挨拶を済ませると、客間に通された。

「さて、突然ですが、本題に入らせていただきますね。」

「はい。どんなことでも答える覚悟です。」

本当だろうか。疑ってかかることにした。

「えー、先ほど米沢さんの家にお邪魔して少し西郷について伺ったんですが、彼は虐められていたそうで。具体的にどんな虐めだったか、教えてください。」

ひとつ大きく息をして澄子が語り始めた。

「漫画だとかアニメで見るような、そんな在り来りでそれでいて残酷な虐めでした。殴る蹴るは当たり前で、毎日古い痣が見えなくなったと思ったら新しい痣をつくってました。他にもパシリやタカリ。死ぬ寸前まで首を吊らせてみたり、廊下の雑巾がけを雑巾3枚ごとに二往復させたかと思えばその雑巾を絞ったバケツたっぷりの汚水を一滴残らず飲ませた挙句にバケツの隅々まで舐めさせたり…。それに、1度二階の窓から突き落とされたりもしていました。」

なんと残酷なことを簡単につらつら並べるもんだ。こんなにも残酷なことが文化のようなものと言ったのか、あの男は。

「本当に、酷いものですね…。」

「はい…。今さら言うのも身勝手なものですけど、実は私は彼のことが好きだったんです。いつもあんなにも虐められるのに、私が困っていた時笑顔で助けてくれたんですよ。私はあの虐めを止めたかった。でも、できなかった。怖かったんです。次は自分が虐められるのではないかと。もし私が声を上げていたら…、彼は、あんなことをする必要は無かったんです…。」

そうか。この人は虐めを目の当たりにしたショックで簡単に内容を話せてしまったのか。その上好きだったとなれば、相当ショックだっただろう…。

「大原さん、自分を責めないでください。きっとそう思っててくれただけでも、彼は救われていますよ。」

西沢さんがそう言うと、澄子がガタンと立ち上がった。

「言葉にしない限り、愛でも慰みでも伝わらないのです!!何一つとして救えないのです!!!」

大きな叫び声。自責か懺悔か。ボロボロと涙を零し始めた。

「西郷くん…ごめんね…」

ハンカチで顔を押さえながら何度も呟く。この人を疑う必要はなかった。

 

澄子は落ち着いたのか、しばらくしてまた話し始めた。

「彼は高三の頃には完全に死んだ目をしていたわ。表情も無く、歩く屍のようだった。でも、もっともっと前、もしかすると私が彼に出会う前から死に始めていたのかもしれない。」

「…このことは学校や学校近辺で話題になったりしましたか?」

「いえ…、おそらく学校がひた隠しにしていたのでしょう。酷い話です…。」

 

結局あの後特に話は出てこず、思っていたよりも早く聞き込みは終わった。

 

「西郷…大変な人生だったんだな。」

「ですね…」

 

日が傾き始める。また明日と、疲れを癒すように風が吹く。春休み前の日曜日。どこまでやれるだろうか…。

スイッチ.2

2 西郷の呪い

翌日の夕方、勉強を教えてもらうついでにまた西沢さんの協力をすべく交番を訪れた。今日は英数どっちをしようか。

「やぁ、みっくん待ってたよ。」

「協力してあげますから、今日も勉強教えてくださいね。」

「わかったわかった。さて、いきなりこっちの話になるんだけど…」

パソコンで何を調べているのか。西沢さんの眼鏡に四角い光が反射している。

「聞き込みから始めるんじゃないんですか?」

「いや、何となく昨日遊び半分で西郷の名前で検索をかけてみたんだよ。」

遊び半分って、何やってんだこの人。

「で、見せるということは何かあったんですね?」

「そう、とんでもないもの。ほら、見てみ。」

 指さしていたのは真っ暗な画面。サイトの名前は『西郷茂之の慰霊所』。」

「これは…?」

「主に西郷を過去に虐めていた人間が書き込んでいるらしいんだ。」

「えー、『俺が悪かった。どうか見逃してください。お願いします。』…まるで懺悔みたいですね。」

「そうなんだよ。しかも少し西郷について詳しく書いた人間のIDはその先一度も現れていない。」

「まさか、恨みだとか呪いで殺された…と?」

「最近平和な街なんて言いつつ変死する人が続出してるんだ。つまりその変死者を辿れば情報は掴める。」

本気の目をしている。

「呪いでもなんでもないですから、おおよそ他殺でしょうね。」

「ん?みっくん、なんでわかるんだい?」

「…呪いなんてあるはずないですから。」

危なかった。

「んー、まあ呪いって線も考えていこうか。西郷について調べて…僕たちも変死しないよなぁ?」

「大丈夫ですって。」

「そっか、じゃあきっと大丈夫だな。」

「それじゃあそろそろ…」

にっぱり笑う西沢さんの顔面に今日も単語帳を押し付けてやった。

 

 

午後6時のくせに暗い空。これだから日の長くない季節は嫌いだ。あれから結局集中できずに少し早めに切り上げた。妹…佳己はまだ部活だろう。玄関を開いてもきっと誰もいないはず。そう考えて歩いていると、後ろから肩を叩かれ思わず変な声が出た。

「…んだよ、兄貴か。」

「驚かせてごめんな。なあ未来、今日も西沢さんに世話になってたんだろ?」

「いーや、世話してやってんだよ。」

「それも知ってるさ。未来は優しいもんな。」

 頭をぽんぽんと撫でてくる。褒めてるつもりか。それとも嫌味か。腹が立って手を払い除けた。

「っ…。とにかく、調べるのはいいけど、本当に気をつけるんだぞ。特に交番の奥。男がずっと見てた。」

「わかりやしたよ、千里眼様。」

ほんとになんだよ千里眼って。便利なもんだ。

「僕は未来の力が羨ましいよ。」

「ふん…」

こっちもろくなことないんだぞ。未来予知なんて。

「さぁ、帰ろう。今日の夕飯は」

「佳己の大好きなオムライス。」

「正解。」

 

 

「さーて、僕もそろそろ帰ろうかな。」

記憶が戻るまでの仮屋。そこで今は暮らしている。ここから割と近くの古いアパート。不自由なく生活している。

パソコンをシャットダウンした瞬間、後ろから話しかけられた。

「西沢くん、何を調べているのかね。」

「あ、部長。お疲れ様です。えー、西郷茂之という男について気になったので個人的に調べてみているのですよ。」

妙な予感がするからわざとヘラヘラしておいた。

「そうか。…今すぐ止めなさい。命令だ。」

低い声でそう言われた途端鳥肌が立った。前にもこんなことがあったような。圧をかけてくる部長の目。恐ろしいと思うと同時に『絶対に調べなくてはならない』と直感した。

本当に極秘になるかもしれないな。みっくんにも少し迷惑をかけてしまうだろう。でも心は勝手に真実を解き明かそうと決意していた。今晩中に聞き込みの相手に目星をつけておこう。